国際エイズ会議におけるSWASHの発表
2024.10.31
SWASHは、2024年7月22日〜26日にかけてドイツのミュンヘンで行われた第25回国際エイズ会議に参加してきました。この記事では、NSWP(Global Network of Sex Work Projects )ESWA (European Sex Workers Rights Alliance )が主催する「Sex Worker Networking Zone」で行った私たちのプレゼンテーションについてご紹介します。
<国際エイズ会議とは?>
国際エイズ会議は、HIV/エイズに関する国際会議です。エイズ流行のピークであった1985年に初めて開催され、1994年に隔年開催となるまで毎年開催されてきました。様々な分野の専門家たちが集まり、関連する政策やプログラムなどについて話し合います。
国際エイズ会議は、歴史的にセックスワーカーたちにとって重要な場であり、セックスワーカーの活動家たちは、長年グローバルビレッジ(入場料無料)でセックスワーカーのためのブースを設けて参加してきました*1。一般的なアカデミックな会議では、セックスワーカーが「専門家」として扱われることは稀ですが、この場では、セックスワーカー自身が自分たちのことを最もよく知っているという考えのもと、世界各国のセックスワーカー団体が活動報告を行ったり、提言を発表したりします。
*1セックスワーカーと国際エイズ会議の歴史については、NSWPが詳しくまとめています。
<SWASHの発表>
私たちは、日本における性産業の状況とコミュニティ主体の取り組みの問題点について話しました。何度も練習を重ね、発表は全て英語で行いました。日英字幕付きの動画は以下のURLからチェックできます。
まずは、SWASHの紹介をしました。SWASHは、セックスワーカーの安全と健康を向上させることを目的に、セックスワーカー主導の団体であり、支援者とともに活動しています。私たちは、セックスワーカーのために役立つ情報を「赤い傘」というウェブサイトで共有したり、政府や研究者と協力し、性感染症予防の啓発活動をしたりしていることを伝えました。
次に、日本の性産業に関する法律について話しました。日本の法律において、売春とは、不特定の相手と、対価を引き換えに性交することを意味します。ここでトリッキーなのは、法律において禁止されている性交とは、膣ペニス性交のみをさしており、例えば、アナルセックスやフェラチオなどは、含まれていないことです。これらの説明を口頭でするよりも、実際にビジュアルとして見せた方が伝わりやすいと思ったので、人形やバナナを使用して話しました。
また、コロナが日本の性産業に与えた影響についても紹介しました。例えば、世界中でいわゆる「エイズパニック」が起きている時にゲイコミュニティが感染の温床とされましたが、コロナパンデミックの時も、似たように性産業を含むナイト産業が感染拡大の原因だと批判されたことや、「不健全だから」という理由で性風俗店が政府の給付金の対象外*2になったことなどを話しました。
*2「セックスワークにも給付金を」訴訟に関しては、こちらをご覧ください。
近年、性感染症対策などの医療や政策の現場では、「コミュニティ主導」が推進されていますが、それを実現する難しさや、そのために必要な構造的な変革について提言しました。SWASHメンバーそれぞれが草の根活動の経験を振り返りながら、十分な助成金が必要な人たちに届かないことや、ほとんどプロボノベースで委託事業をお願いされることなどの問題点を指摘しました。
最後に、日本で買春処罰法が導入される動きに対する懸念について話しました。最近、「女性を守る」という名目で買春処罰法導入の必要性を主張する女性支援団体や研究者が、大手新聞社などで取り上げられ、政治的な議論にも積極的に参加しています。一方で、実際に性産業で働く人々やその支援を行う団体は、そのような議論に参加するのは厳しいです。世界中のセックスワーカー活動家たちは、研究者や国際機関の職員などと協力し、買春処罰がセックスワーカーに与える悪影響について証拠を提示してきました。*3
SWASHも最近、パリ政治学院のエレン・ルバイ教授にフランスのケースについてインタビューを行い、その動画を公開しましたので、ぜひご覧ください。*4
今回の国際エイズ会議への参加では、買春処罰法の悪影響について、弁護士や活動家など最前線で調査研究を行っている人たちから直接お話を伺える機会になりました。SWASHは、今後もSTOP!買春処罰法キャンペーンを通して、これらの報告を行っていきたいと思います。次の記事では、フランスのセックスワーカーたちが買春処罰法について欧州人権裁判所に訴え、その判決を受けて行われたプレスカンファレンスについて取り上げます。異なる分野の専門家たちの意見をまとめていますので、ぜひお楽しみに。