AV新法って、実はAV以外にも適用されるって知ってた? AV新法の深刻な問題点とは!?
2023.01.31
AV新法と呼ばれているけれど法律の名称や条文には「AV」の言葉は出てこない!!
2022年6月に成立し、施行されたAV新法。“AV新法”という名前で知られていますが、法律の略称は「AV出演被害防止・救済法」で、正式名称は「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」という長い名前が付けられています。
出演する際に、強要したり、騙したりするような悪質な勧誘があり、望んでいない人が無理やり出させられる被害があるということから、この法律が作られました。
「AV出演による被害の法律」だと一般的に知られていますが、実はAV以外の動画にも適用されるって知っていますか?
また、法律の名称にも条文中にも「AV」という言葉は使われていません。「性行為映像制作物」という言葉で表現されているのです。
個人が撮影する「性行為映像」も法律が適用される
一般的に「AV」というと、大手AV販売サイトのFANZAや配信プラットフォームのH-NEXTで見られるものを思い浮かべる方が大半でしょう。けれども、この法律がさす「性行為映像制作物」とは、そのような作品だけではありません。
「同人AV」といわれている同人サークルが制作している動画作品や、「個撮」といわれている個人の撮影した動画も「性行為映像制作物」で、この法律が適用されます。
現在では、カップルや夫婦で性行為の撮影を行い、動画サイトで配信しているような人たちもいます。
また、出演者が、制作者でもあり配信者でもあるような形で、性行為の動画の制作から販売までを行うケースもあります。
このような場合でも、この法律に則って制作と販売をしなければなりません。
ここから先、FANZAやH-NEXTで見られるようなAV作品を制作する人たちを「AVメーカー」、同人サークルでAV作品を作っている人を「同人AV」、それ以外の作品を作っている人たちを「性行為動画の制作者」と表記して行きます。
法律ではどんなことが決められている?誰がどんなことを守らなければならないの!?
この法律は、「性行為映像制作物」出演による被害から女優・男優を救済するために制作メーカーなど「制作公表者」に対し、厳しい規制を強いています。
その内容とは、主に次の3つです。
- 契約書面の締結・交付から1ヶ月間の撮影禁止
- 全ての撮影が終了した時から4ヶ月間は公表禁止(発売禁止ではなく、宣伝のための公表も含む)
- AVの公表から1年間(新法施行後2年は2年間)無条件で出演契約を解除できる。ただし、出演者は契約の解除をしても、損害賠償責任を負うことはない。
また、罰則もあります。
- 契約の解除をさせないために、嘘の説明をしたり、脅したりした場合。
→3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人の場合は1億円以下の罰金)
- 出演契約書の交付をしなかったり、説明を法律通りに行なわなかったりした場合。
→6月以下の懲役、100万円以下の罰金(法人も同額)
出演者側の条件としては、契約を解除するときに「現状復帰」が求められます。つまり、出演料の返還をすれば良いということ。
「出演料を返還しなければならないのか」と思う方もいるかもしれませんが、制作メーカーなどは、男優やエキストラなどへの出演料のほか、撮影をするためのスタジオ代、撮影スタッフの人件費、作品を販売するための宣伝費などの多くの経費をかけています。1回の撮影の出費は30〜150万円程度。広告宣伝費が加わると、さらに多くの経費がかかることになります。
それらにかかった費用を賠償せずとも契約が解除できるというのは、民法の契約の原則からすると、非常に出演者が優遇されていることです。
このように事業として継続的にAV作品を作っているようなAVメーカーは、作品として流通させるためにこのような経費をしっかりとかけて、モノづくりをしていると言えます。
同人AVの中にも同じように制作している人たちがいます。
個撮をする人たちはほとんど経費がないという現実
翻って、個撮の性行為動画はどんな流れで制作されているのでしょうか?
SNSにアカウントを作り、DMなどのやりとりをして撮影に勧誘します。その出演料は5〜6万円程度であることが多いとされていますが、中には2〜3万円と低いこともあります。
制作にかかる費用は、機材費と撮影地となるホテル代程度。機材費も最近ではスマホの性能が上がっているため、プロのようなカメラを購入しなくても、それなりの動画を作ることができてしまいます。
制作者が男優役を務めることがほとんどなので、出演女性以外の出演料はかかりません。
1回の撮影での経費の出費は1万円程度です。つまり、契約を解除されても痛手がほとんどないともいえるでしょう。 しかも、SNSのアカウントで活動しているため、撮影をした人の本名は? どこに住んでいるのか? 何をしている人なのか? という素性が一切分かりません。
性行為動画の制作者の個人情報を知っているのはプラットフォーム
素性のわからない個撮などの性行為動画の制作者ですが、唯一、個人情報を明かすところがあります。それはプラットフォーム。販売をする際は身分証明書などの提示が必要です。
ということは、素性を知っているのはプラットフォームになるのですが、それは、被害に遭って、相手に契約の解除を申し入れようとしたところで、プラットフォームに販売業者等情報の開示請求しない限り、どこの誰なのかはわからないということでもあります。
ただし、そんな時のために、16条の「プロバイダ責任制限法の特例」を使って、プロバイダに情報の公開や動画の削除を申し出ることができます。そうすると、プロバイダは対応をしてくれます。
動画が削除されれば、被害に遭った方はホッとするでしょう。一件落着のように思えます。
ですが、肝心の性行為動画の撮影者は、これまでに撮った動画の中で1人の映像が削除されただけ。しかも、元手がほとんどかかっていないのです。
刑事罰のある条件に違反していれば、その罪も追求されて反省し、悪質な撮影を繰り返すことはなくなるかもしれません。
でも、気軽に撮影できるからこそ、「AV」という意識を持たずに撮影できるのが「個撮」の特徴です。「AV出演被害防止・救済法」と略称があるために、違法であるという意識がなく、AV新法に違反する行為をしてしまう個人は、今後も現れていくのではないでしょうか。